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第50話 13課の生きる伝説

Author: 霞花怜
last update Huling Na-update: 2025-07-14 18:00:54

 剣人の手を握ってみて、呪具である刀そのものに憑りつかれているのだとすぐに分かった。

(でも、不思議だ。白雪も健人も、刀に守られている? いや、まるで刀が相棒みたいに、二人に悪さしてない。これってやっぱり)

 忍に視線を送る。

 白雪の時と同じように頷いて、微笑まれた。

(忍は13課の仲間を、すごく大事にしてるんだな。自分で自分を守れる強さを教えているんだ)

 怪異に関わる以上、他者に守ってもらうだけでは限界がある。結局のところ、自分を一番に守れるのは自分だ。

 そのためには自分が強くならねばならない。忍が直桜に施した訓練もそういう類のものだった。

 改めて忍の優しさを垣間見た気分だった。

「そろそろ飯にせんかのぅ。腹が減った。化野も、いい加減に回復したじゃろ」

 梛木がサラダを食みながら声を掛けた。

「もう食べてるだろ。神様ってご飯食べなくても平気なはずだけど」

 呆れながら、席に着く。

「惟神の神と違うて、質量のある顕現は疲労がたまる。神でも腹は減る」

 梛木が卵焼きを頬張って至福の顔をした。

 食事を始めながら、直桜は先ほど剣人が呟いた名前が気になっていた。

「ねぇ、さっき剣人が話していた紗月って、どんな人? 13課の人?」

 陽人からもあまり聞いたことがない名前だ。

 不意に視線を感じて、剣人を振り返る。感動した顔で、直桜を見詰めいている。

「あ、ごめん。呼び捨て、早かった? 白雪が白雪だから、つい」

 言い訳すると、剣人がぶんぶんと首を振った。

「いいです、そのま

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